「更にまさったものを」ヘブライ人への手紙11章32~12章2節

教会暦では、10月の最終聖日から「降誕前節」と呼ばれる季節を迎える。そろそろクリスマスのことを心に思い浮かべましょう、心の準備を始めましょう、というのである。後一カ月余りで、アドヴェントを迎える。新しい年の始まりである。

アメリカ、ニュース雑誌のTIME誌は、毎年12月に恒例の、この1年を象徴する話題の人物を選ぶ「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」を発表し、その顔を表紙に載せている。その年の世界で一番の有名人ということであろう。今年は誰の顔が飾られるか。

1927年にはじめてそれが行われ、現在まで続けられている。初回の顔は、チャールズ・リンドバーク、飛行機による大西洋単独横断を成し遂げた時の人である。1930年は、インド独立の立役者マハトマ・ガンジーである。やはり政治家が多いのは、国を動かし、良くも悪くも「話題」を作り出すキーパーソンだからだろう。2016年ドナルド・トランプの顔が記憶に新しいが、1938年~41年にかけては、ヒトラー、スターリン、チャーチル、ルーズベルトと続いた。

しかし時には、特定の個人ではなく、もっと広く世界の話題となった人々やものを取り上げることもある。2003年には、イラク戦争で戦うアメリカ兵士、2011年には「抗議する人々」と題して、世界各地で抗議デモをする人々の姿を映している。また1982年には、人間の顔ではなく「コンピュータ」が写されて、IT時代の始まりを告げている。もう主役は人間ではない、「機械」だと予言されているようだ。さて今年の顔は誰か、今から予想するのも一興である。

ヘブライ人への手紙から話をする。この手紙(論文)には、「宛先」は記されておらず、執筆者も書かれていない。「ヘブライ人」という名称も、一度も出てこない。しかし昔から高い評価を与えられている文書である。教父オリゲネスは、新約聖書中もっとも文学的な書であるという。その理由は、ギリシャ語文章の流麗さにあり、アレクサンドリアのクレメンスも絶賛していた、とエウセビオスが記している。オリゲネスは(当時使徒パウロの手紙とされていた)『ヘブライ人への手紙』は、他のパウロ書簡とはギリシア語の見事さにおいて際立った違いがあると分析している。著者は不詳であるが、おそらくパウロ書簡がまとめられたあとの、95年ごろに執筆されたと考えられている。確かにギリシャ語を母国語として用いている人の手になるものである。

ではなぜ「ヘブライ人なのか」と言えば、今日の個所を見ると、そう名付けたくなる理由がすぐに分かる。とにかくめっぽう旧約聖書に詳しいのである。旧約の祭儀、宗教理念、制度、そして今回は旧約の有名人が続々と取り上げられる。11章は創世記のカインとアベルから始まって、ノア、アブラハム、イサク、ヤコブ、モーセら、旧約の名だたる人々の生涯が回顧される。さらにギデオン、バラク、サムソン、エフタ、ダビデ、サムエルと続き、短くその人生にまつわる逸話が披露されている。皆さんは、これらの旧約有名人の生涯や事績を知っているだろうか。例えば、先のアメリカ大統領バラク・オバマの名の由来となった「バラク」は、どんな人であったか。旧約でも実にユニークな人なのだが。