説教『すべての人の上に平和を』(ルカ2:8~14)

2017年12月24日          クリスマスイヴ礼拝・説教要約
説教『すべての人の上に平和を』(ルカ2:8~14)

◎このクリスマスイヴの夕べ、教会員の三宅進さんによるチェロ、崔善愛さんのピアノによる演奏によってクリスマスイヴ礼拝を捧げています。このクリスマスは、救い主であるイエス様のご誕生を祝う喜びの時ですが、その喜びの心から美しく喜びに溢れる音楽が生まれ、また、多くの讃美歌が誕生しました。その意味で、クリスマスとは世界中に美しい讃美の溢れる時、美しい音楽の溢れる時だと言っていいでしょう。

◎その讃美の合唱は聖書の中からも聞こえてきます。さきほど朗読した、ルカによる福音書2章14節にある天使たちによる大合唱、[いと高きところには、栄光、神にあれ、地には平和、御心にかなう人にあれ」は、その代表と言っていいでしょう。これはすばらしい讃美ですが、私には一つ気になるところがあります。それは「地には平和、御心にかなう人にあれ」という言葉、日本語訳です。「地には平和、御心にかなう人に平和あれ」ということであれば「御心にかなわない人には平和はないのか」と思ってしまいます。

◎その前の2:10の同じ天使のお告げにはこうあります。「恐れるな、わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる」と。すなわち、イエス様によってもたらされる大きな喜びは「民全体」、つまり、この世界のすべての人に与えられると書いてありますから、やはり、「地には平和、御心にかなう人にあれ」ではおかしいのではないかと思うのです。では、原文はどうなっているのか。原文に基づいて訳すと「いと高きところには栄光、神にあれ。地には平和。人々には喜びがあるように。」と訳せるのです。ですから、天使たちは、主イエスの誕生によって、天の神には栄光が、地のすべての人々には平和と喜びが、もたらされると宣言している、そう理解することが許されるのではないかと思うのです。そう、このクリスマスが伝えるメッセージとは、主イエスの到来と誕生によってこの地上、この世界に、そして地に住むすべての人に平和が実現したことを宣言し、それを伝える、驚くべきメッセージであると言っていいでしょう。

◎しかし、どうでしょうか。主イエスの誕生以来の2000年以上の人類の歴史を振り返った時、この世界に、この地上に平和が実現した、と本当に言えるでしょうか。この100年の歴史を見た時も、第一次世界大戦があり、第二次世界大戦があり、多くの人々が犠牲になっています。第二次世界大戦後もなお、朝鮮戦争、ベトナム戦争など戦争はなくならず、21世紀に入ってもイラク戦争など戦火は止むことなく、それは今、現在も続いています。私達は、この歴史と現実をどう考えたらいいのでしょうか。聖書が告げるこの福音、主イエスの到来によってこの世界に平和が実現した、救いがもたらされた、すべての人に救いと平和が実現したというのは、夢か幻、幻想か気休め、あるいは、間違った認識、あるいは、偽りなのでしょうか。

◎いや、そうではありません。主イエスの到来と誕生、その生涯における愛の教えと愛の行為、そして、十字架と復活の出来事は確かに起こった事実です。そして、この十字架による私達人類の罪の赦しが実現し、人類と神の間に和解と平和が実現し、復活の出来事によって主は罪と死に勝利され、復活の命、永遠の命が確実なものとなった。これは、聖書が告げる、もう一つの現実、神の現実です。私達はそれを信じる者です。確かに、私達の目の前に広がる世界の現実は厳しい現実です。互いに憎み合い、罵り合い、お互いを敵として戦いが続いている、厳しい現実です。しかし、だからといって、主イエスによって立てられた神の現実、救いと平和の現実は失われてはいない。確かに存在する現実です。私達は、目の前の現実があまりにも厳しいからと言って、もう一つの確かな神の現実、救いと平和の現実を見失ってはならないです。

◎20世紀を代表する神学者カール・バルト。彼は第二次世界大戦下、ナチスドイツと闘った人ですが、彼は1968年12月9日の夜、82歳で天に召される前夜、友人に対して電話でこう伝えたといいます。「さあ、意気消沈だけはしないでおこうよ!けっして!なぜなら、治めていたもう方がおられるのだから。全世界を、まったく上から、天から治めたもう方がおられる。だから、僕は恐れない。どんな暗い時でも希望を失くさないようにしよう。神は私達が滅びるままに任せられはしない。私たちの内のただ一人も、私達皆、すべてを滅びさせはしない。治めていたもう方がおられるのだよ」と。彼は神の支配という現実に生きていたのです。だからこそ、目の前の現実がいかに厳しくてもこの世への希望を失うことはなかったのです。

◎さきほど、カザルス編曲のカタロニア民謡「鳥の歌」を演奏していただきました。カザルスは第二次世界大戦下、スペインでファシズムと闘った人です。彼は1971年10月、国連でこう演説しています。「私の故郷・カタロニアでは鳥たちはこう歌います、『ピース!ピース!ピース!ピース!…』と」。彼もまた、平和が実現する現実と希望の上に生きていたのです。戦争は絶対に起こしてはなりません。救いと平和の現実・神の現実に生きるキリスト者は、この上に立って地上の平和を築いていかなければならないのです。